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三省堂 三省堂国語辞典

国語辞典の現代市場へのアダプテーション​

三省堂国語辞典 第八版

明治14年の創業以来、140年にわたり辞書を通して世相を写す辞書を発刊してきた三省堂。三省堂国語辞典の初版は60年以上前、前版からは8年ぶりの改訂となった第八版の発売にあたり、「新語に強い」三省堂からさらに一歩進んだ存在になるために、紙の辞書の存在意義を再定義するコンセプト開発から、PRを実施しました。
結果、30番組・4時間を超えるパブリシティを獲得したPRアクションをご紹介します。企画を立てる構造をご覧いただくとともに、この機会もまた辞書を面白がるきっかけになれば幸いです。

Background

1960年の初版刊行以来、「三国(サンコク)」の愛称で親しまれ、60年以上版を重ねてきた小型国語辞典のロングセラー『三省堂国語辞典』。8年ぶりの改訂、またその販売時期はちょうど日本だけでなく世界がその生活様式を一変させたコロナ禍の最中でした。

コロナ禍で人々の生活が変わり、世の中が変わり、ことばが変わる。
さらにはスマホ時代、誰もがいつでもどこからでも、無料で、様々な情報にアクセスできるようになっています。
こんな時代に紙の辞書が提供できる価値は何か?

紙の辞書の存在意義を問い直すところから本プロジェクトはスタートしました。

Roots

『三省堂国語辞典』編集主幹の見坊豪紀(けんぼう・ひでとし、1914〜1992)は、「三国(サンコク)」編纂のために、生涯をかけて現代日本語の用例採集(ワードハンティング)に力を注ぎ、新聞・雑誌などから140万枚にのぼる言葉を採集しカードに残しました。それらは「見坊カード」と呼ばれ、現在は三省堂の倉庫に保管されています。ワードハンティングは現在でも継続して行われており、言葉が生き生きと使われている現状を、三省堂の辞書を編む人々が採集を続けています。

また、『三省堂国語辞典 第三版』の序文では、見坊 氏はこう記しています。

 辞書は“かがみ”である--これは、著者の変わらぬ信条であります。
 辞書は、ことばを写す“鏡”であります。同時に、
 辞書は、ことばを正す“鑑(かがみ)”であります。

PR Strategy

三省堂には「辞書は“かがみ”」という理念があります。この理念は、『三省堂国語辞典』が長年の編纂過程で編み出した基本姿勢です。この思想から世相を反映した辞書が版を重ねてきました。

私たちは“次の三国”を作るべく、辞書を編む編纂者の皆さんと、辞書の存在意義について何回もディスカッションを重ねました。辞書によっては可能な限り多くのことばを蓄積し詳細に記すものもありますが、”三国”は積極的に現代のことばを選び、平易に簡潔にことばの意味を記す方針を持っています。

その結果、辞書は「言葉の意味で現代を写実した書物」であると捉え直しました。「辞書は“かがみ”」は「三国」に根付く基本理念としてそのままに、新しい時代においてことばから世相を写す“かがみ”として、現代と辞書をつなぐ新たな意味を付け加えました。

このことにより、PRアクションの方針も定まりました。「辞書に採録された言葉の増減により、時代の前進を示す」ことです。新しく採録された言葉は、私たちが獲得した文化や習慣であり、変化した語釈も私たちの言語習慣の変化です。また、辞書に採録されなくなったことばもまた、今の私たちの実生活からの距離を示すのです。

Plan

当時はまだ対面での接触が憚られる空気感がありました。そのため、オンラインで紙の辞書の存在を認知してもらう必要がありました。そこで、シンプルかつ、コロナ禍の経験を含めて変化する生活を実感してもらうコピーとビジュアルを作成。フィジカルなプレスリリースが関係者に届くかどうかわからない、環境において、OGP画像でも伝わるスピード感を意識し設計しました。


このメインのビジュアルだけでなく、意外と説明が難しいことばを解説したもの、新しく追加されたことばだけを集めたものなど、シェアしたくなるような画像を複数作成し、SNS等での盛り上がりにも配慮した企画を行いました。

Result

持続可能なPRコンセプトによる活動は、瞬間風速ではなく継続的なメディア露出に繋がり、結果、東京キー局、準キー局で30番組以上で取り上げられるに至りました。露出は1回あたり3分〜10分程度、計4時間以上のパブリシティを残しています。

1本のプレスリリースを機会に連鎖的な成果を出すに至ったのは、シェアされやすいコピーとキービジュアルの作り込みのみならず、世の中の変化を報道する報道番組において、変化を報道する根拠、参照先として「公器」として活用されたことが挙げられます。

なかにはどのような過程で作られているのか、その裏側へ密着した番組もありました。また、バラエティ番組でも、クイズの引用元となるなど、継続して活用されるPRを実現しています。世相に刺さる存在意義の定義で実現したプロジェクトの一例となりました。

また、TBSドラマ「持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~」では、主人公の父親役の”沢田林太郎”は、三省堂辞書出版部で辞書の編纂をしているフリーの日本語学者として登場しています。監修としても参加された飯間浩明 氏が毎週O.A.と同時に実施していた”リアタイ”も、辞書を愛する人たちにとっての風物詩となっていました。

Essence

このPRアクションを通じた学びがあります。パブリックリレーションズには、社会や生活者の流れやインサイト洞察は不可欠となりますが、”それ以上に”企業やブランドの内側にある蓄積されてきた行動の数々や物語にこそ面白みがあり、強みの源泉となることです。

長く存在するブランドには、積み上げてきた歴史や魅力、独自の習慣があります。日々変わる経済環境を生き抜いてきたことは、並のことではありません。だからこそ、安直に外の物差しにある最適解や、青い鳥に見える手法論に飛びつくことよりも、内側にある源泉から社会との繋がりを求める方が、求める成果へは繋がっているのではないでしょうか。

Credit

ブランドオーナー
三省堂
企画 / プロデュース / PRディレクション
代田淳平 (越境inc.)
アートディレクター
トミタタカシ (T&T TOKYO)
エージェンシー
博報堂

Date

企画期間
2021.6.-2021.7
制作期間
2021.8.-2021.9

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